勝手に選ぶ妖怪解説文ランキング

その年発売された妖怪本・妖怪図鑑の中から、
面白いと思った妖怪解説文を御田鍬;の独断と偏見で勝手に選ぶ企画です。

2023年
1位 もくもくれん (『こわいけど、おもしろい! おばけずかん かがくのふしぎ』)
もくもくれんを げきたい したのは、玉ねぎに ふくまれる せいぶん。ガスと なって 空気中に 放出 された このせいぶんが 目や鼻の 中に 入ると、ねんまくが しげきされて、なみだや 鼻水が 出るのです。
コメント:妖怪解説(?)から科学解説へのシームレスな移行。そもそもなぜおばけずかんで科学読み物を作ろうとしたのか。
2位 生団子 (『みんなは知ってる? SDGsと妖怪図鑑』)
祀ると貯金が増えるという妖怪。ボランティアをする人や妖怪のお手伝いをしているみたいだね。
コメント:「貧富格差をなくそう」の章で登場。差別に関する章で出るとかではない。なお本の内容自体は結構面白い。
3位 ぬらりひょん (『決定版 日本の大妖怪(TJMOOK)』)
一応、妖怪界の頭領ということになっているが、これも江戸時代の創作という説が有力である。
コメント:去年の例と同じく一回は直ってた説明がまた変になったパターンだが、さらに別のページ(こちらも使いまわし)には藤澤衛彦の創作と書いていてよりわからないことに。

2022年
1位 サトイモの精霊 (『日本怪異妖怪事典 東北』)
竹倉史人『土偶を読む』(二〇二一)では、著者が解明したと主張する「土偶の真実」が披露されている。曰く、土偶は「植物の人体化(アンソロポモファイゼーション)」という造形文化で解読でき、その正体は縄文人が植物や貝をフィギュア化した像だという。
コメント:近畿巻で「鱗舐」や「尼比恵」を載せたのも結構な冒険だと思っていたが、東北巻でまさかそう来るとは思わなかった。郷土史家でない妖怪好きが妖怪事典を書く意味はここにある。ぜひ日本怪異妖怪事典そろえよう。(ステマ)
2位 標本がいこつ (『学校のおばけずかん ハイ!』)
<シャーリーダンス>はほんとに、<シャル・ウィー・ダンス>なのかな?<シャーリー>は<シャーリー>じゃなくて、<シャリ>じゃなかったのでしょうか。(中略)あの標本のがいこつは、陽気なおばけだったから、しゃれをいったのかもしれません。
コメント:近年人気急上昇しているけどオリジナル妖怪多くて紹介できなかったおばけずかんシリーズ。この本は『がっこうのおばけずかん』の高学年向けリメイクだがこの文は原文から追加されている。
3位 ぬらりひょん (『日本の妖怪と幽霊大全(100%ムックシリーズ)』)
ずうずうしい妖怪として知られ、家人が忙しい夕方に、勝手に人の家に上がり込んでお茶をすすったり、主人のキセルを吸ったりするという。(中略) 妖怪の総大将と言われるが、これは江戸時代の創作と考えられている。
コメント:じつはこの解説、2020年に同出版社から出たほぼ同タイトルのムックと同じ。 でも2021年に同出版社から出たほぼ同タイトルのムックではかなり修正されており、2022年の今回のムックで何故かまた戻った形。 さらに今回は別ページで吉備中央町のぬうりひょんが紹介されてたりとパワーアップしている。

2021年
1位 瀬戸大将 (『アラマタヒロシの日本全国妖怪マップ』)
出雲市には(中略)「一式飾り」があり、これが付喪神すなわち作り物の妖怪とみなされる。(中略)石燕が絵にかく以前に祭礼や見世物などですでに「一式飾り」の形式は存在しており、石燕はそれを見ていたと推定できる。
コメント:上の引用文はかなり省略したが、全体を読んでも結局どういう論理展開がなされているのかよくわからない。
2位 油すまし (『モンスターにされた生き物たち 妖怪・怪物の正体とは?』)
油を盗んだ人の霊とされる、「油坊」や「油盗人」などの妖怪が京都や滋賀県で伝えられている。この正体は、アオサギやゴイサギであると言われている。
コメント:油すましの項目だったはずが、油すましの正体の話が文中に全くないのは潔い。
3位 河童 (『本で読むもきゅもきゅ妖怪ぬいぐるみ展』)
キュウリが好きだと言われているが最近は飽きてきていて、半分パフォーマンスのような気持ちで食べている。牛丼がすき。
コメント:妖怪図鑑の解説はこれくらい自由でいいんです。

2020年
1位 おとろし (『伝承や古典にのこる!日本の怖い妖怪 山の妖怪たち』)
『化け物尽くし絵巻』によれば、おとろしは高さ8尺(約2.4m)、体は8畳ほどで、口の幅が11尺(約3.3m)もあるという。
コメント:NGワード「ししこり」
2位 はらだし (『福と幸せをよぶ妖怪さんと柴犬さん』)
酒好きで頭の大きな女の妖怪。(中略)宴会芸といえば腹踊りだった時代があった。おじさんたちが何であんなに楽しそうに踊れるのか不思議だったが、もしかしたらあれは男版「はらだし」だったのでは?
コメント:女版のはらだしがメインとなったことで、「男版はらだし」という逆転現象が発生しており面白い。
3位 雲外鏡 (『妖怪元ネタグラフィック超図鑑』)
最近のゲームの印象から、特定の場所へワープする便利な妖怪としての側面が強いが、実はれっきとした伝承のある妖怪である。
コメント:今の子供たちにはそういう印象なのかな?ジェネレーションギャップを感じる。

2019年
1位 せこ (『あるあるいるいるようかいえほん』)
テレビを つけつづけると どんどん ふえていく ようかい。てまねきして テレビの なかへ さそいこみ ふかい もりへ つれていく。
コメント:オリジナル妖怪やオリジナル設定が多くて面白い本だが、中でもこれはイメージが突飛で面白い。
2位 高女 (『伝承や古典にのこる!日本の怖い妖怪 里の妖怪たち』)
豆知識 2016年に、漫画家・水木しげるがデザインした高女の銅像が壊される事件があり、高女の名前が全国的に有名になった。
コメント:あの事件そんなに有名だっけ?って思ったけど、Wikipediaの高女のページに載ってた。そして細かいツッコミをすると銅像ではなく石像である。
3位 油すまし (『戦う妖怪大百科 最強物の怪決定戦』)
どんなことをするのかわかっていないが、旅人たちのうわさ話を長年にわたって聞いてきたため、たいへんなもの知りらしい。 その名のとおり、油を水にかえてしまう悪さをするともいう。
コメント:物知り属性にもっともらしい理由がついた。

2018年
1位 九尾の狐 対 崇徳院 (『妖怪最強バトル大図鑑』)
九尾の狐は勝ちを目指す自分を棚に上げ、戦いの無意味さを崇徳院に諭して、 試合放棄させることに成功してしまった。知識がもたらした、戦わずにして得た勝利である。
コメント:妖力で敵わないからと西行法師の歌を詠んで崇徳院を降参させた九尾の狐。卑怯すぎる。
2位 はぢっかき (『知れば知るほど面白い!クセがつよい妖怪図鑑』)
江戸時代には女性が人前でオナラをしてしまうことは、生きるか死ぬかの大問題で、(中略)引きこもったり自殺したりする女性がいたそうです。 そのため、(中略)「屁負比丘尼」という役職がありました。いってみれば、女性たちをはぢっかきから守っていたゴーストバスターです。
コメント:あまりにも堂々と言い切るものだから読んだ時に脳がフリーズした。
3位 寺生まれのTさん (『日本のおかしな現代妖怪図鑑』)
類似妖怪:なし 彼は唯一無二の存在だ。
コメント:寺生まれってすごい、改めてそう思った。

2017年
1位 どうもこうも (『追え!日本の妖怪スペシャル』)
名前と見た目から想像するに、右の頭と左の頭が別方向に歩こうとし、うまく進めずに「どうもこうも!」と嘆くのではなかろうか。何かと大変そうである。
コメント:勝手に想像された上に勝手に同情されるどうもこうも。
2位 鐙口 (『追え!日本の妖怪スペシャル』)
吉田兼好の随筆「徒然草」には「馬具を調べて、気になる点があればウマを走らせてはいけない」とある。鐙口になっていて足を食われてしまっては大変だから、ということだな。
コメント:勝手に解釈される吉田兼好。
3位 油取り (『こわくてふしぎな妖怪の話』)
「油取りなんているわけねーだろ。油なんかスーパーで売ってるのに、人間から取ってなにに使うんだよ」
コメント:ストーリー上では死亡フラグにあたる台詞だが、そこはかとない正論が光る。

2016年
1位 あやかし (『日本文化キャラクター図鑑 妖怪 異界からのことづて!』)
南方熊楠よ、(中略)おまえはたしかに立派な博物学者だが、わしについての記述はまちがっておるぞ。
コメント:妖怪偉人に妖怪のほうからケンカを売っていくスタイル。
2位 むましか (『おばけちゃんと妖怪かるた』)
むすこたち みて みろ あれが むましかだ
コメント:鼻息荒くするむましかを冷静に眺めるおばけちゃんたちのイラストがシュールで可愛い。
3位 スプーンのようかい (『ようかいだいこうしん こどもびじゅつえほん』)
 
コメント:百鬼夜行絵巻の如意の妖怪。匙の妖怪にされることはあるが、スプーンと表記されるのは珍しい。

2015年
殿堂入り 『妖怪これくしょん〜飼って仲良くしよう!〜』 
妖怪を動物だと考えれば衣服を着ている方が異常なのです。 ここはぜひとも、美人の河童ちゃんにペットになってもらい、真偽を確かめたいところですね。 もし『衣服』だとするのなら、あのツルリとしたボディーの下には、さらにスレンダーな身体が包み隠されている……。 「ちょっと恥ずかしいけど、キミならいいや。ホントの私を見て」 ……なんてね。妄想は常にイイほうへ考える。
コメント:上は最初のページの「河童」の紹介文だが、この本は100ページ以上、誇張なしにひたすら上のような文章が並ぶ。この本から選ぶとランキングが全部埋まってしまうので殿堂入り。
1位 オバリヨン (『妖怪攻略大図鑑(三才ムックvol.775)』)
オバリヨンは、夜道を歩いている人の背中に飛び乗って、歩けなくしてしまう妖怪。人の背中に飛び乗るとき、オバリヨンはある言葉を叫ぶが、これは何という言葉?
A:オバリヨン B:オバタリアン C:オバマ
コメント:「オバタリアン」の古さと「オバマ」の新しさを見事に共存させており高い芸術性を感じる。
2位 子泣きじじい (『妖怪 最強の雑学王』)
すると、しげみから「ホギャア、ホギャア」という赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。「CDかな?」と思い、帰ってきてみんなにたしかめると、だれもそんなCDは用意していないとのこと。
コメント:今時の子供はCDを買わないと言われる今日この頃、微妙にいろいろとずれた発言が面白い。
3位 滝霊王 (『絵でみる江戸の妖怪図巻』)
妖怪や【魑魅魍魎】を抑えてくれる仏様。現代では、滝で発生するマイナスイオンが人によい影響を与えることがわかっている。
コメント:妖怪の解説文に「マイナスイオン」という言葉が使われているのは私の知る限り日本初である。

2014年
1位 みつめんうば (『10分で読めるほんものの妖怪の話3・4年生』)
うばには顔が三つもあったのです。正面は、ずいぶんとやつれた顔にはなっていましたが、前と変わらぬおだやかな母親の顔です。でも、右側の顔はまったくちがうものでした。それは、心の底から人をにくむような表じょうでした。(中略)そして左側には悲しそうな泣き顔がありました。
コメント:愛らしい黄表紙の妖怪を題材にしてなぜか始まる本格的ホラー話。挿絵もめっちゃ怖い。
2位 白うねり (『妖怪大百科 元祖』)
だが、説明を苦労して読んでみると、何のことはない、この貧弱で龍の子みたいなものは、不用になったボロ布でできた龍で、古布の化身にすぎなかった。(中略)私としてはむしろ衣装や白布がスーッと風もないのにうねり、なびく風流な妖怪のほうがよかったのだが……。
コメント:解説放棄どころかただの悪口である。ちなみに全文だと「由緒正しい妖怪でもなくて」「もうちょっと風雅なお化けだと思っていたので落胆した」などとさらに悪口が続く。
3位 ろくろくび (『いえのおばけずかん』)
ろくろくびは ただ よなかに くびが のびて、 れいぞうこの なかの ものを なめる だけですよ。 きれいな おんなの ひとを おくさんに できたのだから、 それくらい がまんしなさい。 がまんすれば、 だいじょうぶ!
コメント:「がまんしなさい」→「がまんすれば、だいじょうぶ!」という日本語の流れが美しい。


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