手形傘(てがたがさ)

山梨県甲府市太田町にある一蓮寺にまつわる伝説。『裏見寒話』にも記されている。

昔、この寺には勇猛剛強で朝比奈和尚と呼ばれていた和尚がいた。
ある時寺で葬式をした後、雷が落ち暴風雨が吹き荒れ、
黒雲が堂中に舞い降り雷光を放ち、雷が寺の塔へ雷が落ちるように思えた所、
雷雲から大きな手が出てきて、寺の塔の上で読経をしていた朝比奈和尚をつかもうとした。
しかし和尚はその手をつかみ、しばらく争った後、怪物を引きずりだし組み伏せた。
怪物は和尚の膝の下に強い力で押さえつけられ、動けなくなった。
しばらくすると雨がやみ風も静まり、雲が消えたので
天に帰れなくなった怪物は命乞いをした。
周りの僧も怪物の命を助けるよう願ったので、
和尚は怪物に今後同じ宗派の葬式を邪魔したり
同じ宗派の人の家に雷を落としたりしないよう誓わせ、怪物を許した。
和尚は約束を違えないよう証文を書かせようとしたが、
怪物は深山にいて字を学んだことがないからと許しを乞うたので、
手に墨をつけて傘に手形を押させた。
以来、葬式の時には必ずその長柄の傘をさすようになった。
傘についた手形は猫のものに似ているがずっと大きいという。
この傘は六月の虫干しの時には人に公開していると『裏見寒話』には書かれている。

水木しげるの絵では竜のような怪物が描かれているが
これは『絵本小夜時雨』の「平川妥女異蛇を斬」が元となっている。
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