白髪山の怪物(しらがやまのかいぶつ)

『土佐奇談実話集』に登場する怪物。

弘化三年(1846年)頃、本山郷汗見川村に松井道順という名医がいた。
六十歳になった時、不老長寿の薬「貴精香」を探し求め、
深山幽谷にあるのではないかと聞いて白髪山に入った。

山々を歩き深山で三日留まったが見つからず食料も尽きかけたので
帰ろうとすると、丈八尺ほどで黄色い一本の角があり顔面は朱色、
目が星のように光る怪物が現れたので道順は驚いて地に伏した。

すると怪物は驚かなくてもよいといい、
自分はは全世界の死人の塊であり、生きている人間を病気にし
自分の国につれてくるのが役目だと語った。
その国には異人の霊も日本人の霊もおり、閻魔も針の山もないという。
そして道順に、寿命を延ばすので殺してやりたいほどだが
薬を作り病人を治す心根は感服すると言って
全ての病の原因と治療法をまとめた巻物を授けた。
その後両手を挙げて3、4度招く格好をして長生きや不老長寿について語った。

それによると、中国で東方朔が八千歳、西洋ではノアが九百五十歳、
アダムが九百三十歳、日本では浦島太郎が三千歳、武内宿禰が三百歳、
神武天皇の百二十歳、仁徳天皇の百四十歳、大石良雄の妹清舟尼が百四十四歳、
また三河国宝飯郡の万兵衛が二百四十三歳、
土佐では比島竜乗院の日讃上人が百六十四歳まで生きたが
いずれも自分の国に来ているという。
そして、秦の始皇帝の命で不老長寿の薬を探した徐福もいろいろな伝説があるが
自分の国に来ており二千年前のことは忘れたと言っている、
豊臣秀吉も不良長寿を望んだため朝鮮の沈維敬に不老長寿の妙薬と騙されて
亜比酸の入った飴玉を貰って朝夕なめているうちに病気になって死んだと
沈維敬本人から聞いたなどと話した。

語り終わった怪物はたちまち消え、道順は杉の枝にかけられた
紙か布か分からないものに書かれた秘法の巻物を持ち帰り、
ますます名声を高めたと言う。
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