目玉しゃぶり(めだましゃぶり)

もとは『今昔物語集』にある怪異。

美濃国の生津庄に紀遠助という者がいた。
長門前司藤原孝範により東三条殿の長宿直として召抱えられていたが、
それが終わり暇をとり美濃へ帰っていた。
その途中、瀬田の唐橋を渡っている時、橋の上で女が立っていて挨拶をしたので、
怪しく思って通り過ぎたところ、女は「どちらへ行きなさるのですか。」と尋ねた。
遠助が「美濃へ行くのです。」と答えると、女は「事付を申したいのでお聞きくださいませんか。」
と言ったので、遠助は「申し上げてください」と答えると
女は喜び、懐から絹で包まれた小さな箱を出し、
「この箱を方縣郡の唐の郷の段の橋に持っていって橋の西に女房がいるでしょうから、その女房に渡してください」
遠助は気味悪く思い、「つまらない請け合いをしてしまった」と考えたが、
女の様子が恐ろしげなので断りづらく、箱を受け取って
「その女房とは誰ですか。どこの方ですか。もしいらっしゃらなかったらどこを訪ねればいいでしょうか。
またこれを誰からの物であると申すべきでしょうか。」と言った。
女は「橋のもとに行くだけで、そうすればこれを受け取りに女房が出てきます。間違いは絶対にありません。
ただ、絶対にこの箱を開けて中を見ないでください。」と言って立ち去ったが、
遠助の従者は女の姿が見えずただ遠助が馬から降りて立っていただけだと思い怪しんだ。

その後、遠助は美濃に着いたがその橋を忘れて通り過ぎ、家に着いて箱を渡していなかった事を思い出し、
「今から持っていって渡そう」と物置に置いておいた。
それを偶然見た遠助の妻は、嫉妬心が深く、
「ほかの女にあげようとして、京でわざわざ買って来て私に隠して置いているのだろう」
と思い、遠助が出ている間にこっそりと取って開けてみると、
たくさんの人の目玉や、少し毛のついたまま切られた多くの男性器が入っていた。
これを見て驚き怖くなった妻は、帰ってきた遠助を戸惑いながら呼んでみせたところ、
遠助は「ああ、見るなと言ったのに、良くないことだ。」と箱を元のようにして、女の言った橋に持っていった。
すると本当に女房が出てきたので、遠助が女の言ったことを語ると、箱を受け取り
「この箱は開けて見られてしまった。」と言うので、遠助は「全くそんな事はありません。」と答えたが、
女房は顔色を悪くし「なんてことをしなさったのだ」と言って箱を受け取った。

帰った遠助はその後気分が悪くなり臥せるより、すぐに死んでしまった。
これを聞いた人はみなこの妻を憎んだという。
今昔物語集は最後に「嫉妬心が深く夫を疑う妻がいると、このように夫に良くない事が起こる」とまとめている。


南條武『妖怪ミステリー』ではこの怪異が「目玉しゃぶり」と紹介されており、
986年頃の出来事としているほか、 箱の中を見た者の死体からは目玉が消えてしまうとしている。
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