縊鬼(いつき)

人を自殺させる怪物。「いき」「くびれおに」と読むこともある。

『反古のうらがき』に次のような話がある。
麹町(東京都江戸川区麹町)の某組頭の屋敷で夕方から酒宴があった。
酒をよく飲んで落語などをする同心が来る事を約束していたが
待っていてもやってこなかった。
やがて同心がぼんやりとやってきて、
やむをえない用で門の前に人を待たせているからと断ってすぐに帰ろうとした。
家来はそれをゆるさず、主人や客人に知らせるまで待つよう言うと、同心はしぶしぶ従った。
主人は、理由も聞かず立ち去らせるわけには行かないと言って用事が何を聞かせた。
すると同心は「食い違い門の中で首をつる約束をしたので仕方がない」
と言って立ち去りたがった。
みな怪しく思い、乱心したかと考えたので、
座敷で無理に酒を七、八杯飲ませ、もうこれでと言ったところにさらに七、八杯飲ませた。
さらに主人がいつもの芸をするよう言い、さらにかわるがわる酒を与えると、
しばらくすると立ち去ることを忘れ、乱心の様子も見えなくなった。
 その時家来が、食い違い門の中で
首吊りがあったと連絡があったので人手がほしいと言ってきた。
一同はそれを聞いて、縊鬼がこの同心を殺せず
他人を殺したので縊鬼がはなれたのだと思い、同心に先ほどの様子を尋ねると、
「夢のようでよく覚えてないが、夕方前に門に来たところ一人の人がいて、
「ここで首をつれ」と言われたので、断れず
「確かに首をつるが、今日は組頭の所へ行く約束なので断りをした後にする」と言った。
するとその人はそれならばと門まで付き添い、早く断りを言ってくるように言った。
なぜかその言葉には断れない義理があるように思えた。」と言った。
「今は首をつる気はあるか」と尋ねると、
同心は首に輪をかける真似をして「ああ恐ろしい恐ろしい」と言った。
約束を重んじたことと酒を飲んだことによる徳で助かったのだと人々は言い合った。

『夜窓鬼談』の「縊鬼」にも首をつって死んだ霊が女にとりつく話がある。
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