小豆はかり(あずきはかり)

『怪談老の杖』にある怪異。
麻布近辺に、二百俵ほどをかかえる大番の侍が住んでいた。
この家には昔から化け物がいるといわれていた。
侍もそれを隠そうとしなかったのか、ある友人が化け物のことを尋ねると
「それほど怪しいというほどのことではない。私達が幼い時から時々ある事で、この家では慣れっこになって
誰も怪しんでいない。」と言ったので、
友人は「話の種に見たいものだ」と希望すると侍は
「簡単だ。来て一晩泊まりなさい。しかし何事もないこともあるので、 4、5日は寝ないで見逃さないように。」と答えた。

友人は好事家だったのでその夜に行き泊まった。
この部屋だという場所に侍と二人寝て話していたが、
それにしてもどのような化け物なのかと非常に興味深く思っていた。
侍に聞くと、「まずは黙って見ていなさい、騒がしい夜には出ない。」というので息を殺して聞いていると、
天井の上でどしどしと足音のような音がした。
あっと思って聞いていると、ぱらりぱらりと小豆をまくような音がした。
「あの音か」と聞くと、侍は頷き小声になって「あれだ、まだいくつか種類があるので黙って見ていなさい。」
と答えたので夜具をかぶって息を殺していると、
小豆の音は次第に大きくなって、最後には一斗(約16リットル)ほどの小豆を天井の上にはかるようになり、
間があってまたぱらぱらと音がするといった事がしばらく続いて止んだ。

また聞いていると庭に路地下駄がからりからりと飛び石でなる音がして手水鉢の水をさっさっとかける音がした。
人がやっているのかと障子を開けてみたが、人もなしに水の出る竜頭から水が出て、また止まるということが起き、
客人も驚いて「さてさておかげで初めて化け物を見た、もう怖いことはないのか。」
というと、侍は「このとおりだ。ほかは何も怖いことはない。
時々上から土や紙くずなどを落とすこともあるが何も悪いことはしない。」といった。

その後語り伝えられ、身近なものはみな聞いたが、何度も聞くと
その家の主でなくても怖くも面白くもなかった。
ましてやその家の者はなんとも思わなかったのは当たり前である。

この侍は一生妻がおらず、男世帯で、外に妾を一人囲っており男女三人の子がいた。
「女などがいる家ではこのように人も知らないようなことはなく、いろいろと尾ひれをつけて言いふらすだろう。
世の階段として広まっているものは臆病な下女などが厠で猫の尾を触ったり、または鼠に額を撫でられたりして
言いふらす話が多い。この小豆はかりは何の仕業かはわからない。」
と『怪談老の杖』はまとめている。
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